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「microRNAが変える糖尿病医療の未来」糖尿病を“細胞情報”で治す時代へ

糖尿病治療は今、大きな転換点を迎えています。

これまでの糖尿病医療は、「血糖値を下げること」を中心に進化してきました。

インスリン治療、経口血糖降下薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬。
糖尿病治療薬はここ十数年で飛躍的な進化を遂げ、多くの患者が以前より良好な血糖コントロールを維持できるようになっています。

しかし、それでもなお、糖尿病は世界的に増え続けています。

そして現在、医学研究の最前線では、「血糖値」という結果だけではなく、“なぜ細胞が正常な代謝制御を失うのか”という、より根本的なテーマへ視点が移り始めています。

その中心にあるのが、「microRNA(マイクロRNA)」という極小RNA分子です。

microRNAは、細胞内で遺伝子の働きを調整する重要な制御因子であり、近年では糖尿病、肥満、動脈硬化、神経変性疾患、さらには老化との関連まで、世界中で研究が進んでいます。

特に2010年代後半からは、糖尿病領域におけるmicroRNA研究が急速に進展。
欧米では、「血糖値を下げる治療」から、「細胞情報を制御する治療」へと概念が大きく変わり始めています。

さらに近年注目されているのが、「エクソソーム」と呼ばれる細胞由来の極小カプセルです。

エクソソームの内部には、microRNAやタンパク質などさまざまな情報が含まれており、細胞同士が情報を伝達する“メッセンジャー”として機能している可能性があります。

つまり糖尿病とは、単なる血糖値異常ではなく、

  • 細胞間コミュニケーション
  • 慢性炎症
  • ミトコンドリア機能
  • 免疫制御
  • 老化シグナル

などが複雑に絡み合った、“全身の情報ネットワーク異常”として捉え直され始めているのです。

一方で、この分野はまだ非常に新しい医療領域でもあります。

日本国内で再生医療や細胞由来治療を実施する場合には、「再生医療等安全性確保法」に基づく厳格な管理体制が必要となります。

特に、高度な細胞加工や高リスク領域に関わる治療については、「第一種再生医療等提供計画」に準じた安全性審査や細胞管理体制が重要視されています。

つまり、この領域は単なる“先進医療”ではなく、

  • 科学的エビデンス
  • 品質管理
  • 細胞加工技術
  • 安全性評価
  • 制度設計

まで含めて成立する極めて高度な医療分野なのです。

そして、この“糖尿病を細胞レベルで理解する研究”を長年牽引してきたのが、小田原雅人医師です。

小田原医師は、糖尿病・代謝・内分泌領域における日本の第一人者として知られています。

1989年には、インスリン受容体遺伝子異常に関する研究成果をScience誌へ発表。
当時としては極めて先進的な研究であり、「糖尿病を遺伝子レベルで解析する」という現在につながる流れを切り拓いた研究の一つでもありました。

その後も、

  • インスリン抵抗性
  • ミトコンドリア遺伝子異常
  • 糖尿病性動脈硬化
  • 代謝異常
  • 内分泌制御

など、幅広い領域で研究を続け、日本の糖尿病医療を長年支えてきました。

そして現在、小田原医師が注目しているのが、「microRNAによる代謝制御」という新しい領域です。

小田原 雅人 プロフィール

専門は動脈硬化性合併症の臨床(糖尿病学,内分泌代謝学,動脈硬化学,分子生物学)。主な研究テーマは糖尿病と合併症の遺伝的素因,糖尿病大血管障害の危険因子,インスリン抵抗性の分子機構など。1989年,インスリン受容体遺伝子異常をScience誌に発表。現在もミトコンドリア遺伝子異常をはじめ,糖尿病の成因や糖尿病合併症発症に関与する遺伝子の解明に取り組む。東京医科大学糖尿病・代謝・内分泌・リウマチ・膠原病内科学分野主任教授を経て、現在同大学客員教授。

【専門領域】糖尿病、動脈硬化、代謝異常(高脂血症、高尿酸血症)

【指導医、専門医等】
日本糖尿病学会認定指導医・糖尿病専門医
日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医

【所属学会】
日本内科学会(評議員、認定医、指導医)
日本糖尿病学会(評議員、認定医、指導医)
日本内分泌学会(代議員)
日本糖尿病合併症学会(評議員)
日本成人病学会(評議員)
日本臨床分子医学会(評議員)
日本病態栄養学会(評議員)
日本臨床栄養学会

【経歴】
東京大学卒、医学博士 前東京医科大学糖尿病・代謝・内分泌・リウマチ・膠原病内科学分野主任教授 元東京医科大学病院副病院長 元虎の門病院内分泌代謝科部長 元オックスフォード大学医学部Clinical Lecturer

「糖尿病=生活習慣病」だけでは説明できない

― まず、現在の糖尿病医療をどう見ていますか?

小田原先生:
もちろん、糖尿病は食事や運動など生活習慣が大きく関わる病気です。ですが、実際の臨床ではそれだけでは説明できないケースが非常に多いんです。

同じような生活をしていても糖尿病になる人とならない人がいる。
痩せているのに重度の糖尿病になる人もいる。
逆に肥満でも発症しない人もいる。

つまり、「何を食べたか」だけではなく、その人の細胞がどう反応するかが重要なんです。

最近は、“糖尿病になりやすい細胞状態”という考え方が重要視され始めています。

これは非常に大きな変化です。

昔は、「血糖値が高い=糖尿病」という理解でした。
しかし現在は、その背景にある、

  • 慢性炎症
  • 細胞老化
  • ミトコンドリア機能低下
  • 情報伝達異常

などが深く関わっていることが分かってきています。

microRNAは「細胞の司令塔」かもしれない

― その中心にmicroRNAがあるのでしょうか?

小田原先生:
そうですね。microRNAは非常に興味深い存在です。

簡単に言えば、“細胞内の司令塔”のような役割を持っている可能性があります。

人間の身体では、数万種類の遺伝子が存在しています。
しかし、そのすべてが常に働いているわけではありません。

必要な時だけONになる。
不要な時はOFFになる。

その調整をしているのがmicroRNAの一つの役割だと考えられています。

例えば糖尿病では、

  • 炎症を強める遺伝子
  • インスリン抵抗性を悪化させる遺伝子
  • 脂肪蓄積を促進する遺伝子

などが異常活性化しているケースがあります。

microRNAは、そうした遺伝子ネットワーク全体を調整している可能性がある。

だから今、世界中の研究者が注目しているんです。

「血糖値を下げる」だけでは限界がある

― 現在の糖尿病治療の限界はどこにありますか?

小田原先生:
現在の薬は非常に優秀です。
実際、多くの患者さんを助けています。

しかし、糖尿病の本当の怖さは、「血糖値」だけではありません。

怖いのは、

  • 血管障害
  • 動脈硬化
  • 神経障害
  • 腎障害
  • 認知機能低下
  • 全身の老化促進

なんです。

つまり糖尿病とは、“全身性の慢性炎症疾患”でもある。

だから単純に血糖値を下げるだけでは、完全には止められない部分があるんです。

例えば、糖尿病患者さんでは「炎症シグナル」が長期間持続しているケースがあります。

この慢性炎症が、

  • 血管を傷つける
  • 神経を傷つける
  • ミトコンドリアを傷つける

そして最終的に、“老化そのもの”を加速させていく。

最近では、「糖尿病は加速老化疾患の一種」と考える研究者も増えてきました。

microRNAは“糖尿病の根本”に触れられる可能性がある

― microRNAは、その根本部分を変えられる可能性があるのでしょうか?

小田原先生:
私は、そこに大きな可能性があると思っています。

従来の薬は、ある意味で“結果”をコントロールする医療でした。

血糖値が高い。
だから下げる。

もちろんそれは重要です。

ただ、microRNA研究はもっと上流にあります。

「なぜその炎症が起きるのか」
「なぜ細胞が正常反応を失ったのか」

その情報制御そのものに介入できる可能性がある。

これは非常に大きい。

もし将来的に、

  • 炎症制御
  • インスリン感受性
  • ミトコンドリア機能
  • 細胞老化

などをmicroRNAレベルで正常化できるようになれば、糖尿病治療の概念そのものが変わるかもしれません。

3D medical background with virus cells and DNA strands

エクソソームが「運び屋」になる

― エクソソーム研究も重要ですね。

小田原先生:
非常に重要です。

microRNAだけでは、体内で安定的に機能させるのが難しい部分があります。

そこで注目されているのがエクソソームです。

エクソソームは、細胞が放出する小さな情報カプセルです。

その中にmicroRNAを搭載して運んでいる。

つまり、“情報の運び屋”ですね。

これが非常に面白い。

例えば将来的には、

「炎症を抑えるmicroRNAを含んだエクソソーム」

のような形で、代謝異常へアプローチする研究も進む可能性があります。

これは従来の薬とは全く違う発想です。

薬ではなく、“細胞情報”を届ける医療です。

糖尿病治療は「予測医療」に変わるかもしれない

― 将来的には、発症前診断も可能になるのでしょうか?

小田原先生:
その可能性は十分あります。

現在でも研究レベルでは、

  • 糖尿病になりやすいmicroRNAパターン
  • 動脈硬化リスクを示すmicroRNA
  • 老化進行を示唆するmicroRNA

などが報告されています。

つまり、将来的には、

「まだ血糖値は正常だけれど、このままだと危険」

という段階を見つけられるかもしれない。

これは医療にとって非常に大きい。

これまでは、

病気になる

検査異常

治療開始

でした。

しかし未来は、

細胞情報異常を検知

病気になる前に介入

という方向へ進む可能性があります。

これは“予測医療”ですね。

「老化制御医療」にもつながっていく

― 糖尿病研究は、アンチエイジングとも関係していくのでしょうか?

小田原先生:
非常に深く関係しています。

糖尿病患者さんでは、

  • 血管老化
  • 神経老化
  • 慢性炎症
  • 酸化ストレス

が加速しやすい。

つまり、糖尿病は“老化促進疾患”とも言える。

逆に言えば、細胞情報制御を改善できれば、

  • 老化速度
  • 慢性炎症
  • 血管障害

などへの影響も期待されるわけです。

だから今、microRNA研究は、単なる糖尿病研究ではなく、

「老化とは何か」

というテーマにもつながり始めています。

「未来医療」は、すでに始まっている

― 最後に、これからの医療をどう見ていますか?

小田原先生:
私は、医療は今後、“物質医療”から“情報医療”へ進むと思っています。

これまでは、

  • 血糖値
  • 血圧
  • コレステロール

といった「数値」を見ていました。

しかし今後は、

「細胞がどう情報交換しているか」

を見る時代になるかもしれません。

人間の身体は、単なる物質ではありません。

情報によって制御されているシステムです。

microRNA研究は、その本質へ近づこうとしている。

私はそこに、非常に大きな未来を感じています。

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